著者 : Richard Jacob   2023年12月5日 投稿のブログ記事 (元の英文記事へのリンク)

ABRF iPRG 2023 crosslinking study

Association of Biomolecular Resource Facilities(ABRF)では、自身が主催する技術的な研究グループの勉強会を開く際に実際のサンプルやデータを用いて検証します。Proteomics(PRG)、Proteome Informatics(iPRG)、Proteomics Standards(sPRG)の3つのプロテオミクス研究グループでは長年にわたって興味深い検証を行ってきました。そして今年、iPRGグループがクロスリンクペプチドのデータ解析をテーマに掲げました。その目的は、既存のソフトウェアを使ってクロスリンクペプチドのサンプルを分析する方法を関係者に教えるとともに、教えた内容を実際に試すことができるデータセットを提供することです。このテーマに対する取り組みを通じて、より多くのコアラボが、顧客や共同研究者にサービスとしてクロスリンクペプチドの分析を提供できるようになるよう、望まれています。

今回の勉強会で取り扱うタンパク質は、大腸菌発現系から精製された組換えタンパク質です。発現タンパク質は適切な条件下において複合体を形成します。このタンパク質を、ジスクシンイミジルスルホキシド(Disuccinimidyl sulfoxide , DSSO)で架橋し、超遠心分離を行い、SDS-PAGEで分離しました。ゲル切片を切り出し、ヨードアセトアミドで還元アルキル化並びにトリプシン消化処理を行いました。消化物はThermo Scientific Orbitrap Fusion Lumosで低分解能イオントラップと高分解能オービトラップの両方のデータ取得方法にて測定しました。

この勉強会における第1段階として、ソフトウェア解析ツールのチュートリアルに使用される3つのデータが準備されました。幸運にも弊社からは、弊社製品Mascot ServerとDistillerを使用した解析のチュートリアル(ABRF_iPRG_2022 study_XLink tutorial_Mascot.pdf)を提供する事となりました。

私たちが提供するチュートリアルでは、FASTAデータベースの構築、クロスリンク解析用のメソッド設定、質量分析スペクトルデータの処理、検索結果の確認、といったクロスリンクペプチドのデータ解析に必要な手順をご説明しています。

データは高分解能MS/MSデータで、Mascot Distillerで処理しました。クロスリンクペプチドは質量が非常に大きく、価数も高くなりがちです。そのため検索前のデータ処理において、フラグメントイオンピークのm/zをMH+にデチャージ(1価換算)するか、MGFファイルのピークの値の行に価数の情報を出力することをお勧めします(訳者補足:この処理により、3価以上のフラグメントピークがMASCOT検索のマッチングに利用され、スコアが向上する可能性があります)。検索する方法としては、1.Mascot Serverを直接使用する方法2. Mascot DistillerとServerを使用する方法、そして3. Mascot Daemon+Distiller+Serverを使用した自動パイプラインを使用する方法、があります。

ABRF iPRGの勉強会に対する協力の一環として、iPRGタンパク質配列とクロスリンクペプチドの設定を、MASCOT公開サーバーにおいて利用可能としています。しかし公開サーバーでは、1回の検索における解析可能なクエリー数に上限があり、iPRG研究のデータファイルでは中に含むquery数が上限を超えてしまいます。もしご自分のMascotサーバーをお持ちでなく、公開されているMascotサーバーでこのデータセットの検索を試されたい場合は、support@matrixscience.comへご連絡ください。折り返し、上限を一時的に解除したアカウントの利用方法についてご案内します。

チュートリアルの最後では結果の解析について説明しています。我々は以前、インタクトなクロスリンクペプチドのマッチングを検証するためのガイドライン(英語版日本語版)をいくつか発表しました。それらのガイドラインにて、良いマッチのケースではデータがどのように見えるのか、逆にクロスリンクペプチドのデータを検証するには不十分な状態とはどのようなものなのかについて確認する事ができます。マッチの数が多いと、複数の電荷状態、修飾、異なるペプチド長のために、クロスリンクしたマッチ間の関係を見るのが難しくなります。私たちはこの課題に対処するため、既存の専用のソフトウェア「xiVIEW」を利用しています。xiVIEWで架橋部位ごとにソートされた結果を表示する事ができます。Mascot Serverの結果から、xiVIEW用のファイル出力が可能です。

rawデータからピークリスト、Mascot Server検索結果、xiVIEWでの結果閲覧まで、実際の解析をどの手順からでも体験できるよう、公開データを用意しました。

Mascot Serverを使ったクロスリンクペプチド解析についてご質問がありましたら、support-jp@matrixscience.comまでご連絡ください。

公開データ

Mascotを使ったクロスリンクペプチド解析のチュートリアル:ABRF_iPRG_2022 study_XLink tutorial_Mascot.pdf

Mascot Distillerのrawデータ処理オプション:prof_prof.200.ThermoXcalibur.opt

Filename

MGF file

Mascot Server search result

xiVIEW project

211026EWas01_E1.raw

211026EWas01_E1.mgf

FTocrnYTm.dat

FTocrnYTm.csv

211026EWas02_F1.raw

211026EWas02_F1.mgf

FTocrnYOO.dat

FTocrnYOO.csv

211026EWas03_F2.raw

211026EWas03_F2.mgf

FTocrnYOS.dat

FTocrnYOS.csv


Keywords: , ,