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2019年8月号

「今月のブログ」では、Mascotのスコアリングと有意判定についてご説明します。

「今月の論文」では、エピトープマッピングの新しい手法に関する研究論文を取り上げました。

「今月の小技」では、MascotのWindows版とLinux版の違いについてご説明します。

Mascotニューズレターの バックナンバーはこのページ からご覧いただけます。日本語版は「Japanese」リンクをクリックしてください。また、Mascotニューズレターの内容に関してお気づきの点やご質問などありましたらご連絡ください。

 

今月のトピックス

Mascotの統計処理
エピトープマッピング
Windows版とLinux版
 

今月のブログ:Mascotの統計処理

Mascot検索では、質量データとアミノ酸配列の「質量マッチング」を先験的(a priori)な確率事象として処理しています。質量データが配列データベース内のアミノ酸配列に質量マッチングしたときの確率はあらかじめ決められており、配列データベースの種類やサイズ(配列データベースを構成するエントリ数)には依存しません。質量マッチングの確率は一般的に小さな値ですので、この確率のマイナスlogをとって正の値に変換し、これをスコアと名付けて検索結果ページに表示しています。

Mascot検索を通じて、ひとつの質量スペクトルは多数のペプチドに(度合いは異なりますが)マッチングしますが、それらのマッチング毎にスコアと(検索対象となるペプチド数を試行回数と考えて)期待値pを計算しています。スコア(期待値p)がどの程度であればそのマッチングが有意か否かは、仮説判定の手法を使って判断しています。すなわち「プリカーサイオン質量+質量トレランス」に収まる「任意(すべて)のペプチドに対して質量スペクトルが偶然にマッチングしている」という帰無仮説は正しい(true nulls)として、「あらかじめ設定した期待値p」=α(デフォルト値は0.05)を使って、期待値pがαよりも小さいマッチングが存在すれば「true nulls」の帰無仮説は棄却され、対立仮説(特定のペプチドに対して質量スペクトルが必然的にマッチングしている)が正しいと判断しています。なお、実際には質量データの同定を目的として、実験に関係する配列データベース(当然のことながら実在するタンパク質で構成されています)を使ってMascot検索を行いますので、上記の「true nulls」仮説に問題がありそうですが、「true nulls」の存在割合が大きければこの仮説判定はうまく動作します。また、仮説判定には Type I error(False positive:偽陽性)と Type II error(False negative:偽陰性)が伴いますので、Target/Decoy検索を利用して有意水準近傍の結果を検証することも重要です。

もうひとつの問題として、配列データベースに相同性が高いタンパク質が含まれている場合は、互いに似たアミノ酸配列に同じようなスコアでマッチングする可能性があり、偶然と必然のマッチングがシャープに分離したスコア分布にならないことがありますので注意が必要です。

詳しい内容を ブログ にまとめましたのでご覧ください。また、日本語資料 の18~22頁の内容も参考になると思いますのでご覧ください。

Mascot score histogram

今月の論文:エピトープマッピング

Mascotニューズレターで取り上げてほしい話題や研究論文がありましたらぜひご紹介ください。また、Mascotニューズレターの内容に関してお気づきの点やご質問などありましたらご連絡ください。

 

Intact Transition Epitope Mapping - Targeted High-Energy Rupture of Extracted Epitopes (ITEM-THREE)

Bright D. Danquah, Claudia Rower, Kwabena F. M. Opuni, Reham El-Kased, David Frommholz, Harald Illges, Cornelia Koy and Michael O. Glocker

Molecular & Cellular Proteomics, 18 1543-1555 (2019)

この研究論文では、抗原のトリプシン消化物と抗体の混合溶液を直接ナノエレクトロスプレーでイオン化し、四重極とイオンモビリティでエピトープを分離・断片化し、TOFでMS測定するという、エピトープマッピングに関する新しい測定プロセス「ITEM-THREE」について報告しています。

ITEM-THREEはエピトープが既知のantiTRIM21およびantiRA33抗体と、それらのエピトープを含む合成ペプチドを使って開発・検証されました。

リコンビナントなhuman TNFaの消化物とTNFa抗体に対してITEM-THREEを適用した結果、2つの未知エピトープを同定したと報告しています。

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今月の小技:Windows版とLinux版の違い

日本ではLinux版のMacotを使っているお客様は少ないのですが、時々Windows版とLinux版の違いを聞かれますのでご説明したいと思います。

MascotはIISやApacheなどのWebサーバの機能を利用して動作するサーバソフトウエアですので、検索処理やデータベースの更新・管理など、Mascotのほぼ全ての機能はWebブラウザなどのクライアントソフトウエアを通じて利用することができ、OSによる操作環境の違いはありません。一方で、OSにソフトウエアパッチを適用したり、PCの保守を実施する際にはOSの知識が必要となりますので、Linuxをコマンドラインから操作した経験がない場合はWindows版を選択することになります。

技術サポートを必要としない(または自分で調べて解決できる)のであれば、Linuxは無料で使うことができます。Windowsは有料ですが、Mascotを動かすためには価格が高いServer版ではなく価格が安い(と言っても高い感じがしますが)Professinal版を利用することができます。ただしProfessional版は一部の機能が制限されています。たとえばWindows 10 Professional版では、TCP/IPを使った同時接続数は20に制限されていますので、複数のユーザが複数のブラウザを開き、ファイル共有接続している場合などはこの制限を超えてしまうかもしれません。ハードウエアに関してはプロセッサソケット数は2、論理コア数は256、搭載メモリは512MBに制限されています。

Mascotの検索性能と機能に関してはWindow版とLinux版に差はありません。また、Mascot DaemonとMascot DistillerはWindows専用ですが、これらはMascotのクライアントとして動作しますのでMascotがインストールされているPCにインストールする必要はありません。ただし、WindowsのIISが扱えるファイルサイズは4GBまでですので、Mascot Daemonから4GBを越えるピークリストを処理したい場合は 工夫(ニューズレター2016年2月号)検討(ニューズレター2016年12月号) が必要です。

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