今月のブログでは、クロスリンクペプチドの解析と検証を行った記事についてご案内します。
今月の論文では、タンパク質のN末端ペプチドを特異的に分離して同定するための新たな手法を発表した論文をご紹介します。
今月の小技では、クライアントから検索した際に表示される不完全なエラーメッセージとその確認方法についてご案内します。
Mascotニューズレターのバックナンバーはこのページからご覧いただけます。日本語版は「Japanese」リンクをクリックしてください。また、Mascotニューズレターの内容に関してお気づきの点やご質問などありましたらご連絡ください。
ペプチドのクロスリンクは構造解明のための強力な技術ですが、考慮すべきペプチド・結合位置の組み合わせが幾何級数的増加をしている時は結果の解釈が難しくなります。MASCOT ver.2.7では、ループリンク配列であっても、モノリンクを含む線形配列であっても、複数の異なるペプチドペア(修飾されている可能性もあります)であっても、すべて同じスコアリングシステムを使用しています。そのため、候補のマッチを単純にスコア比較することができます。
配列が既知で、ペアと成り得る対象が限定されている合成DSSクロスリンクペプチドを使って解析されたデータが最近公開されました。そのデータをMASCOTで検索をし、クロスリンク検索の’真の’ (decoyデータベースを使わない、)FDRを中心に結果を評価しました。また偽陽性となった結果について、その内訳や中身を詳細に解析しました。
解析を通じて感じた、偽陽性を一定以下に抑えながら同定数を最大化するための戦略は以下の通りです。
Chih-Hsiang Chang, Hsin-Yi Chang, Juri Rappsilber and Yasushi Ishihama
Molecular & Cellular Proteomics November 2, 2020
著者らは、誘導体化や複雑な処理を必要とせずにN末端ペプチドを濃縮することで、タンパク質のN末端を特徴づける新しいアプローチを開発しました。この方法ではプロテアーゼとしてTrypNを使用し、強カチオン交換(SCX)クロマトグラフィーを利用して正電荷の数、並びに電荷の局在状況に基づいてペプチドが分離されます。この手法の適用により、タンパク質のN末端ペプチドとそれ以外の内部ペプチドを分離する事ができます。
また著者らは、末端のLys/Argの位置のみが異なり他は同じ配列である約4,000組のペプチドを使って、SCXでの保持時間を比較しています。その結果、TrypN消化されたペプチドはTypsin断片よりも明らかに強いSCX保持を示しました。これは、TrypNペプチドがN末端側に局在した2つの正電荷を持つ官能基を運んでいる一方、トリプシンペプチドのC末端Lys/Argの正電荷は部分的にα-カルボキシ基によって中和されているためです。
この方法をヒト胚性腎細胞溶解液の解析に適用したところ、1,550個のアセチル化ペプチドと200個の未修飾のN末端ペプチドが同定されました。内部ペプチドの混入率は3%未満でした。
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検索に Mascot Daemon やProteome Discoverer などのクライアントソフトウェアを使用している場合、Mascot Server からの警告やエラーメッセージが不完全な場合がある事に気付かれるかもしれません。例えば、Daemonのstatus タブで、次のような報告を目にする事があります。
Sorry, the database (%s) is not currently available for searching
この記述は少し不明瞭です。'%s' はプログラム内の置き換え文字がそのまま表されています。本来のメッセージは以下の内容でした。
Sorry, the database (Uniprot_arabidopsis) is not currently available for searching
もし問題の原因を探るため完全なメッセージを把握したい時は、Mascot Server をご覧ください。ウェブブラウザを使ってローカルのMascot ホームページへアクセスし、Database Status へのリンクをたどって、続いて Error log をクリックします。日付と時間を元に探せば、クライアント側と同じエラーを見つけるのは難しくないはずです。
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