2020年12月号

クリスマス休暇の期間中に脳を鍛えるため、de novoシーケンシングのコンペを準備いたしました。入力データであるMS/MSスペクトルデータはMGFのピークリストとしてこちらからダウンロードできます。ペプチドは修飾されている可能性もありますし、トリプシン処理されたペプチドと決まっているわけでもありませんのでご注意ください。配列決定に至るプロセスはどのような方法でも構いません。答えがわかりましたらnewsletter@matrixscience.com宛てに、12月24日の正午までにメールを送信してください。正解された方から抽選で3名様にプレゼントを差し上げます。また選ばれた3名の方に対応して100ドルずつ、WHOの新型コロナウイルス感染症連帯対応基金に寄付をさせて頂きます。さらに当選者のお名前は来月の弊社ニューズレターに掲載いたします(匿名を希望される場合を除く)。なお今回のものとは別のデータですが、Mascot Distillerを使ったde novo sequencingの解析とその顛末は10月のブログ記事(英語日本語)で紹介しています。

続いて、通常のニューズレター記事のご案内です。

今月のブログでは、配列データベース管理に関するヒントをいくつかピックアップしてご紹介します。

今月の論文では、ペプチドやタンパク質のADPリボシル化とその修飾位置を特定するための新しい手法を発表した論文をご紹介します。

今月の小技では、データベース検索の実用的なヒントが満載のレビュー論文をご紹介します。

Mascotニューズレターのバックナンバーはこのページからご覧いただけます。日本語版は「Japanese」リンクをクリックしてください。また、Mascotニューズレターの内容に関してお気づきの点やご質問などありましたらご連絡ください。

データベース管理の小技集

配列データベースの管理において、お客様の元で発生するいくつかの問題がございます。ここではそれらのトラブルの内容と対処法についてご紹介します。

  • 新しいデータベースの構築後行われる検索テストが規定時間を超えタイムアウトしてしまい、データベース構築が完了しないケースがあります。 Configuration Editor で "MonitorTestTimeout" の設定値を増やしてタイムアウトを回避するようにしてください。
  • 家畜のような非ラボ種を扱う場合は、検索対象として各生物種別にエントリーが分割されたUniprot データベースの使用をお勧めしています。MASCOTではUniprotのデータベースを簡単に利用するためのPredefined設定やテンプレートを準備しています。詳細は、日本語資料「検索対象の生物種を予め絞り込んだUniprotKBデータベースの作成手順」をご覧ください。
  • データベースのAccession(一意の識別子)の文字が長すぎてエラーが出る事があります。新しいデータベースの使用を開始した際Accession文字列が50文字を超えているというエラーが表示された場合は、設定画面に戻りParse Rule(文字の抜き出しルール)を変更してデータベースを再構築してください。
  • 各エントリーの配列の長さには上限があり、設定値を超えるとエラーになります。必要に応じてConfiguration Editorで”MaxSequenceLen“の値を変更してください。
  • 核酸配列データベースを検索する場合、MascotServerはその場で6フレームの翻訳を行います。他社ソフトウェア経由でMASCOTを利用している場合、核酸データベースの検索をサポートしていないケースがあります。そのようなケースで核酸配列データベースで検索をしたい場合は、Webブラウザの検索フォームまたはMascot Daemonを使って検索を行ってください。

具体的な設定方法のご案内を含め、詳しくは2020年9月のブログ記事(英語日本語訳)をご覧ください。

ADP-リボシル化ペプチドの気相フラグメンテーション :アルギニン特異的な側鎖損失とそのデータベース検索への応用

Gas-Phase Fragmentation of ADP-Ribosylated Peptides: Arginine-Specific Side-Chain Losses and Their Implication in Database Searches

Peter M. Gehrig, Kathrin Nowak, Christian Panse, Mario Leutert, Jonas Grossmann, Ralph Schlapbach, and Michael O. Hottiger

Journal of the American Society for Mass Spectrometrypublished online November 3, 2020

ADP-リボシル化されたペプチドの修飾および部位の同定は、修飾されたペプチドの不安定性や修飾の可能性があるアミノ酸がペプチド内に多数存在する事が多いため、非常に難しい問題です。著者らは、トリプシン消化しADP-リボース結合マクロドメインタンパク質を使って濃縮したHeLa細胞と野生型マウスの骨格筋組織のサンプルを解析に使用しました。HCD(高エネルギー衝突解離)サーベイスキャンを用いたLC-MS/MSに、HCDをトリガーとしたEThcD MS/MSを組み合わせる事で、ADP-リボース構成部位、またはペプチド骨格部位でフラグメンテーションしている大量のスペクトルを得る事ができました。

測定スペクトルの解析から得た知見をもとに、著者らはデータベース検索においてbおよびyイオンからの583.08 Daフラグメントの損失(ニュートラルロス)を含むようにADP-リボシル修飾の設定をカスタマイズして検索を行ったところ、ADP-リボシル化ペプチドの同定数が30%以上増加しました。アサインされるプロダクトイオンスペクトルのピーク数が増えた事で、ペプチド同定スコアもPTM局在化スコアも改善されました。

ADPリボシル化アルギニンを豊富に含むサンプルについては、HCDによるフラグメンテーションの適用と、583.08 Daのニュートラルロスを考慮した検索の実施をお勧めします。一方、ADP-リボースとセリン、グルタミン酸、またはアスパラギン酸とのO-グリコシド結合は不安定で、この結合部位がフラグメンテーションの開裂部位となってしまいます。そのため修飾位置を判断する材料となるようなフラグメントピークが得られにくく、これらのアミノ酸への修飾の同定並びに位置特定は難しいと言えるでしょう。

Mascotニューズレターで取り上げてほしい話題や研究論文がありましたらぜひご紹介ください。また、Mascotニューズレターの内容に関してお気づきの点やご質問などありましたらご連絡ください。

データベース検索の実用的なヒントが満載なレビュー論文

Mascot tip

今月の小技では、解析に役立つたくさんの素晴らしいヒントが満載された論文をご紹介します。

Spectral quality overrides software score - A brief tutorial on the analysis of peptide fragmentation data for mass spectrometry laymen

オープンアクセスの論文です。解析プログラムを使用するうえで注意するべき点を、実例と共にまとめています。今後皆様が質量分析の初心者の人達から依頼された解析結果を送り返す時に、この論文のコピーも一緒に送ってみましょう。

お問い合せ

マトリックスサイエンス株式会社

〒110-0015

東京都台東区東上野1-6-10 ARTビル1F

info-jp@matrixscience.com

電話:03-5807-7895

ファクシミリ:03-5807-7896

Matrix Science logo