2021年5月号

今月のブログでは、環境プロテオミクス・メタプロテオミクスに有用な、MascotとUnipeptを組み合わせた利用方法についてご紹介します。

今月の論文では、細胞外マトリックスプロテオームにおけるペプチドカバー率向上を目的としたサンプル調製法の評価と改良についてご紹介します。

今月の小技では、新しくリリースされたMascot Distiller ver.2.8 についてご紹介します。

Mascotニューズレターのバックナンバーはこのページからご覧いただけます。日本語版は「Japanese」リンクをクリックしてください。また、Mascotニューズレターの内容に関してお気づきの点やご質問などありましたらご連絡ください。

Metaproteomicsに有用な、MascotとUnipeptの組み合わせ

腸内細菌、地下水、環境サンプルなどの複雑なサンプル(多数の生物種が混合したサンプル)の場合、Mascot Protein Family Summary レポートは、各タンパク質の類似性を評価するうえで有用です。タンパク質が共有ペプチドの組み合わせに基づいてまとめられ、ファミリーメンバーとしてグループ分けされて表示されます。しかし、アルゴリズムは生物学的分類に関する情報の取り扱いを意識しておらず、異なる種からの相同タンパク質を単純に一緒くたにまとめています。

Mascot の結果を「Unipept」というサービス(またはアプリケーション)にエクスポートする事で、生物種に関連するより高度な情報を付与する事ができます。Unipept は、Ghent 大学によって作成されたデータベースです。UniProtKB に含まれるすべてのトリプシン断片ペプチドについて、そのペプチドを持つ生物種の情報、最小共通祖先 (LCA, Lowest Common Ancestor)にマッピングしたデータを有しています。LCAは単一の種である事もありますし、複数生物種にまたがってペプチドが存在する場合はより上位の生物学的分類であることもあります。

Unipeptを利用する手順は簡単です。MASCOTの結果画面、Protein Family Summaryから結果をファイルにエクスポートし、いくつかの行を並べ替えて編集した後、ペプチド配列をテキストファイルにコピーしてUnipeptサービスに対するqueryデータを作成します。このファイルを検索をかけると数分で結果が表示されます。類似タンパク質がまとめられているグループに対して、そのグループに属する各ペプチドのLCA情報(単一種あるいはそれより上位の生物分類)をまとめて確認する事ができます。

詳細はこちら(英語日本語)をご覧ください。

細胞外マトリックスプロテオームにおけるペプチドカバー率向上を目的とした、サンプル調製法の評価と改良

Evaluation and refinement of sample preparation methods for extracellular matrix proteome coverage

Maxwell C. McCabe, Lauren R. Schmitt, Ryan C. Hill, Monika Dzieciatkowska, Mark Maslanka, Willeke F. Daamen, Toin H. van Kuppevelt, Danique J. Hof, Kirk C. Hansen

Molecular & Cellular Proteomics Published online April 9, 2021

細胞外マトリックス(ECM)は、構造的な土台であると同時にシグナル伝達を媒介する役割を担っています。しかし溶解性が低く、修飾のバリエーションも様々でタンパク質の抽出が困難であることから、プロテオミクス研究者にとっては取り扱いが難しい題材でもあります。

今回ご紹介する研究では、マウス全身のサンプル並びに4つの臓器を用いて、ECMタンパク質を残して細胞タンパク質を抽出する脱細胞化法を評価しています。広く使われている5種類の細胞除去法、4種類のECM抽出法、4種類のシングルショット抽出・分析法が検討対象となっています。さらに、ヒドロキシルアミン消化法を14種類の条件で最適化しました。

検証の結果、ECMのカバレッジを最適化するには、同定スペクトル数が最も多く、core matrisomeタンパク質の配列カバレッジが最も高くなる「Gnd-HCl/HA」抽出プロトコル(塩酸グアニジンと塩酸ヒドロキシルアミンによる2段階抽出)が推奨されることがわかりました。しかし彼らはまた、コラーゲンやプロテオグリカンに焦点を当てたいなど、プロジェクトの目的や優先順位に基づいて脱細胞化法の選択を行うべきであると結論づけています。

Mascotニューズレターで取り上げてほしい話題や研究論文がありましたらぜひご紹介ください。また、Mascotニューズレターの内容に関してお気づきの点やご質問などありましたらご連絡ください。

MASCOT Distiller 2.8

Mascot tip

この度、Mascot Distiller 2.8がリリースされましたことをお知らせいたします。主な新機能は以下の通りです。

  • Bruker timsTOFデータへの対応
  • Bruker timsTOFデータのプレカーサー定量におけるイオンモビリティフィルタリング (Mascot Server 2.7が必要)
  • ラベルフリー定量のためのグローバルタイムアライメント
  • Pythonスクリプトを使用したレポート作成の改善

この無償アップデートは、サポートページからダウンロードできます。

Mascot Distiller の試用をご希望の場合は、弊社までご連絡ください。折り返し、30日間使用可能な評価用ライセンス情報をお送りいたします。

日本法人としては、グローバルタイムアライメント機能やそれと同時に行われたメモリ使用効率改善によりラベルフリー定量が非常によくなりましたので是非皆様にもお試しいただきたいと考えています。MASCOT Server検索と連携の良いラベルフリー定量計算が可能です。関連するブログ記事もございます。また現在ブログ記事のデータを利用したチュートリアル資料を作成中で近日公開予定です。

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