2021年10月号

フィラデルフィアで今月末に開催されるASMSでは展示ホールの327番ブースでお待ちしております。同時期に行われるオンラインのプレゼンテーション公開に関する情報はこちらにて順次公開予定です。

今月のブログでは、ver.2.8で実現したディスクアクセス速度の上昇についてご案内します。

今月の論文は、N末端のユビキチン化を検出する新しい抗体セットについての研究をご紹介します。

今月の小技は、新しい修飾設定をunimodに登録する事についてのご案内です。

Mascotニューズレターのバックナンバーはこのページ(英語版日本語版)からご覧いただけます。また、Mascotニューズレターの内容に関してお気づきの点やご質問などありましたらご連絡ください。

ディスクアクセスが律速になっていた問題への対応

MASCOT ver.2.8 では、検索全体にわたり影響を及ぼしていたディスクアクセス処理を高速化する事により、ver.2.7 に比べ 20-35%の検索速度高速化を実現しました。一例として、683,905件のクエリー(入力データ)の検索をヒトプロテオームデータベースに対して、典型的なcore i7の4コアCPU搭載コンピューターで検索を行ったところ、ver.2.7では24分かかった検索がver.2.8では17.5分で完了します。さらにMASCOTインストール先をHDDからSSDに変更する事で20%の速度向上が見込めます。

データベースのサイズが増えるに従い、ディスクアクセスが検索全体に及ぼす影響もますます大きくなりますが、ディスクアクセス処理というのは並列処理がしづらい、単一コアで処理せざるを得ない部分が存在します。ディスクアクセス処理が検索速度全体に大きな影響を与えるかどうかは、CPU処理速度とディスク速度の相対的な関係性やディスクそのものの速さなど様々な要因によります。ver.2.8ではこれまで行っていたディスク処理の内容を検証し、データの読み書きが順序よく行われる事を保証しつつ、できるだけ多くのコアを利用する事で全体の速度を上げるよう改善されました。具体的にはデータ読み取り専用のスレッドを1つ、データ書き込み専用のスレッドを1つ準備し、データのフォーマットなどに最大4つのスレッドを使ってデータの読み書きの取り扱いを行います。

最適化されたディスクアクセス速度、SSDへの切り替えなどについてはこちら(英語日本語)をご覧ください。

[日本法人より補足]

MASCOT Serverの日本での販売では、ver.2.7へのアップグレード時に1CPUライセンスの対応コア数を4から6に増加しています。ver.2.6以前のMASCOTをご利用のお客様は、バージョンアップと最新版コンピュータの適用によりテストケースで検索速度が3.8倍になるなど大幅な速度上昇が見込まれます。詳しくはこちらをご覧ください。

UBE2WによりN-末端がユビキチン化された基質を、抗体ツールキットを用いて発見する

Antibody toolkit reveals N-terminally ubiquitinated substrates of UBE2W

Christopher W. Davies, Simon E. Vidal, Lilian Phu, Jawahar Sudhamsu, Trent B. Hinkle, Scott Chan Rosenberg, Frances-Rose Schumacher, Yi Jimmy Zeng, Carsten Schwerdtfeger, Andrew S. Peterson, Jennie R. Lill, Christopher M. Rose, Andrey S. Shaw, Ingrid E. Wertz, Donald S. Kirkpatrick & James T. Koerber

Nat. Commun. 2021, 12, 4608

著者らはユビキチン化の生理的な影響を解明するため、N末端がユビキチン化されたタンパク質を幅広くプロファイリングする方法を検討しました。その結果、タンパク質N末端がユビキチン化されたトリプシン切断ペプチドを特異的に検出し、濃縮する事ができる抗体ツールセットを開発することができました。

彼らはウサギの免疫系とファージディスプレイ法と組み合わせた手法で、N末端にジグリシンモチーフを持つペプチド(GGX)を選択的に認識し、かつユビキチン結合リジンのトリプシン消化によって生成される分岐グリシン-レムナント(K-ε-GG)を選択しない4つのモノクローナル抗体を見つけだしました。

続いてHEK293細胞の溶解質をトリプシン消化処理し、発見した4種類の抗GGX モノクローナル抗体を用いて、GGXペプチドの免疫アフィニティーによる濃縮を行いました。同時にコントロールとして抗K-ε-GG モノクローナル抗体を用いた解析も行いました。LC/MSにより、抗GGX のモノクローナル抗体により選択的にGGXペプチドを細胞溶解質から濃縮し、一方でK-ε-GG ペプチドは濃縮されなかった事を確認しています。

その後、ラベルフリー並びにタンデムマスのタグを使った質量分析の定量手法を用いて、ユビキチン結合酵素UBE2Wの基質となっているタンパク質73個を特定する事ができました。

Mascotニューズレターで取り上げてほしい話題や研究論文がありましたらぜひご紹介ください。また、Mascotニューズレターの内容に関してお気づきの点やご質問などありましたらご連絡ください。

Unimod データベースへのデータ追加について

Unimod データベースには修飾設定が数多く含まれていますが、あなたが望む修飾設定が含まれていない事があるかもしれません。既にリストに含まれている修飾でも登録内容以外の残基に対して行われる修飾、目的の組成と同じ修飾がないなど、様々なケースがあり得ます。しかしunimodに新たなエントリーを登録してそれを検索に利用しようかというアイデアに対しては、少し慎重に考えてください。まず、そもそも登録してから検索エンジンで利用できるようになるまで時間がかかります。というのもダウンロードファイルに設定内容が反映されるまでには、いくつかの登録の蓄積を待つ必要があるためです。また、データは登録前に検証され、場合によっては採用されません。新たな登録には論文やデータシートへのリンクを求めていて、それらの内容がチェックされています。

Unimodにない修飾設定を反映した検索をいち早く実施するには、やはりローカル版のmascotをご利用いただき、修飾設定を追加またはカスタマイズして検索される事をお勧めします。修飾設定はConfiguration Editorのmodification で設定を行う事ができます。ビオチンのような大きなサイズの修飾は原子の数をカウントするのも間違いやすいものですが、ローカル版であればすぐに修正したり試行錯誤する事も可能です。

MASCOT ver.2.5以降をご利用のユーザーは、ローカルで設定した修飾とunimodで定められた修飾のファイルが分離されているため、unimod情報の入れ替えによってご自身で作成した設定が消失してしまう事はありません。新しい修飾について実験的な証拠が得られその内容が公開された時、その情報を根拠にunimodなどpublicデータベースへ登録して頂ければ、他のユーザーも使用可能となります。ご協力の程、何卒お願いいたします。

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