2022年7月号

今月のブログは、シングルセルプロテオミクスにおけるデータベース検索の新たな課題を提起した記事のご紹介です。

今月の論文は、Volumetric Absorptive Microsampling (VAMS)装置を用いたトリプシン消化の迅速化に関する研究のご紹介です。

今月の小技では、古いMASCOTをご利用の方に新しいMASCOTをご利用頂くメリットについてご紹介しています。

Mascotニューズレターのバックナンバーはこのページ(英語版日本語版)からご覧いただけます。また、Mascotニューズレターの内容に関してお気づきの点やご質問などありましたらご連絡ください。

シングルセルプロテオミクスにおけるタンパク質/ペプチド同定の課題

シングルセルプロテオミクスは、装置やサンプル調製という面で改善されつつあります。Mascotを含むすべての検索アルゴリズムは生物、組織、細胞のバルクサンプルを想定して開発されていますが、シングルセルのプロテオミクス解析データの不均一性を詳しく見ると、いくつかの課題が浮かび上がってきます。

ピーク強度の圧縮は、時に信号とノイズの境界の曖昧さをもたらします。Mascotは理論ピークをMS/MSスペクトルにマッチングさせる際、スペクトルを100Daの分割ウインドウ(bin)にわけ、各ウインドウ内のフラグメントイオンを探します。ノイズがランダムで、すべての分割ウインドウのフラグメントピークを完全に覆ってしまわない限り、アルゴリズムはシグナルを見つけ出し選択することができます。ノイズを増えた場合マッチングができなくなるというより、(アルゴリズムの特性上)マッチングスコアが低下する傾向があります。

シングルセルのMS/MSスペクトルでは、バルクスペクトルと比較して、フラグメントピーク数が少なくなる傾向があります。最近の計算機による研究でy フラグメントの数を比較したところ、シングルセルのスペクトルデータはバルクのスペクトルと比較して明らかに少ない事が示されました。スペクトルの質の違いから、シングルセルプロテオミクスで解析対象のデータベースにスペクトルライブラリーを使用する場合、バルクスペクトルではなくシングルセルデータから作成する必要があるといえます。

スペクトルにマッチした候補ペプチドのスコアは、ピーク強度の圧縮やフラグメントピーク数の減少により低くなることがあるため、スコアの閾値にも影響を与える可能性があります。Percolator のような機械学習ツールを適用しマッチングを再評価することで、感度(この場合は同定ペプチド数)を向上させることができます。

詳しくは、シングルセルプロテオミクスのMascot検索例などこちら(英語版日本語版)でご紹介しています。

次世代型VAMS®-Trypsin固定化により、ボトムアップのタンパク質測定で瞬時にタンパク質分解が可能

Next generation VAMS®-Trypsin immobilization for instant proteolysis in bottom-up protein determination

Léon Reubsaet, Bernd Thiede, Trine Grønhaug Halvorsen

Advances in Sample Preparation, 3 (2022) 100027

著者らはLC/MS用のサンプル調製用に、市販のVolumetric Absorptive Microsampling (VAMS) デバイスにトリプシンを固定化して使用することを検討しました。 まず著者らはトリプシン固定化おいて、pH、反応時間、容量、酵素濃度についての条件を確認し、最適な値はpH=9、トリプシン50µgであるとしました。

また同じ量である7種類のタンパク質混合物を用いてVAMSによる消化の時間依存性についても評価しました。VAMSチップにタンパク質を取り込みすぐに乾燥(消化)させる、あるいは密閉容器で数時間トリプシンとの反応を継続させて比較を行いました(なおVAMSトリプシンサンプラーではLC/MSのためのペプチド抽出の前に消化後の還元アルキル化が行われました)。比較の結果、トリプシンペプチドのシグナル強度は急速分解(風乾)、2時間および6時間の反応で同程度でした。

血清サンプルにVAMSを使用したところ、風乾させると96個のタンパク質が、一晩消化を行うと99個のタンパク質が同定されました。一方比較のため、従来のサンプルの溶液内分解についても行ったところこちらは204個のタンパク質が同定され、従来の方法に比べるとトリプシン修飾VAMSでは約半数のタンパク質が同定されたことが確認されました。

Mascotニューズレターで取り上げてほしい話題や研究論文がありましたらぜひご紹介ください。また、Mascotニューズレターの内容に関してお気づきの点やご質問などありましたらご連絡ください。

旧バージョンのMASCOTをご利用のお客様にお勧めしたい事

MASCOT Serverは日々開発が進められており、新機能の追加や速度上昇、外部環境変化への対応などが行われています。古いバージョンのMASCOT Serverをご利用の方も、サーバーを新しくすることで使い勝手が大きく向上するかもしれません。最近弊社にて特にご紹介しているのが以下の改善ポイントです。

  • 計算・結果表示が速くなる : 5年前のver.2.6のシステムと比べ、最新システムでは3.8倍
  • NCBIprot全体の検索が可能に
  • Windows11 対応
  • クロスリンクペプチド検索機能 [ver.2.6より]

速度上昇についてはこちら、Windows11対応についてはこちらをご覧ください。またNCBIprotについては再来月などにニューズレターの記事としてご案内予定ですが、ブログ記事としては既にこちらで公開しています。新規販売に比べバージョンアップデートは割引価格が適用される事があります。販売価格や気になる機能などがございましたらお気軽に弊社までお問い合わせください(以下お問い合わせ先をご利用ください)。

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