今月のブログは、Mascot 製品を駆使してDIA-MS用の高品質なスペクトルライブラリを作成する方法に関する記事のご紹介です。
今月の論文は、Salmonella myovirusのカプシドタンパク質についての研究です
今月の小技では、MascotでDSSOを使ったタンパク質の架橋構造解析を行う方法についてです。
Mascotニューズレターのバックナンバーはこのページ(英語版、日本語版)からご覧いただけます。ご一読の上、ご意見・ご質問等ございましたら、お気軽にお問い合わせください。
Data-Independent Acquisition(DIA)データ解析ソフトウェアの多くは、ペプチド同定のためにMS/MSスペクトルのライブラリを必要とします。このスペクトルライブラリは通常、機械学習モデルを使用して配列から予測スペクトルを作成するか、DDAモードでサンプルを測定し、その検索結果をライブラリ化して作成されます。
Mascotの検索結果は機械学習モデルのトレーニングセットとして使用できますが、Mascot Daemon、Mascot Distiller、Mascot Serverを使用して自分自身の実験に特化したより高品質なスペクトルライブラリを作成する事ができます。今回ご紹介するブログ記事では、公開されているデータセットからMSP形式のスペクトルライブラリを作成する方法についてご紹介しています。rawファイルの処理はMascot Distiller、自動化はMascot Daemon、そしてライブラリはMascot Serverのスペクトルライブラリクローラー機能で生成します。
データ処理のパイプラインは5つのステップで構成されています:
多くのステップはMascot Daemonを使って自動化されますが、一部操作には手作業が必要となります。スペクトルライブラリの作成には結果の評価など人間の判断による微調整(訳者補足:状況に基づいたさらなるフィルターリングなど)が必要であり、完全に自動化することは賢明ではありません。 上記操作により作成されたライブラリデータベースの「current」フォルダからMSPファイルをコピーし外部へ持ち運んで、SkylineやDIA-NNのようなDIA解析ソフトウェアで使用することができます(訳者補足:Scaffold DIAではMSPファイルからDLIBに変換をするツールが搭載されており、同じく利用可能です)。さらに、Database managerでは作成時のログを見ることができ、これによってライブラリに何がインポートされ何がインポートされなかったか、を正確に記録する事も可能です。
Aaron Scheuch, Sara A. M. Moran, Julia N. Faraone, Sophia R. Unwin, Gialinh Vu, Andrea Denisse Benítez, Nurul Humaira Mohd Redzuan, Dana Molleur, Sammy Pardo, Susan T. Weintraub and Julie A. Thomas
著者らはSalmonella myovirusのカプシドタンパク質について研究を行い、頭部の成熟タンパク質の構成を明らかにするとともに、それが組み立ての際どのようなタンパク質分解によって達成されるかについて明らかにしました。カプシドは50以上の異なる遺伝子産物から構成され、その中には240kbのゲノムと共にパッケージされたり宿主細胞内に放出されるものも多く含まれています。
著者らは、配列の網羅性を高めタンパク質分解部位を特定するため、高濃度のファージタンパク質をSDS-PAGEゲルに流しました。脱染後、ゲルスライス中のタンパク質を還元アルキル化してからトリプシンで消化しLC-MS/MSを行ったところ、野生型ビリオン中の102個のファージタンパク質を同定する事ができました。
ビリオンタンパク質を頭部と尾部の成分に分類するため、WTファージと同じ要領で精製した尾部なし粒子のサンプルについて3回の複製実験を行い、53の頭部タンパク質と30の尾部タンパク質を同定する事ができました。
MSファイルのデータベース検索において切断パターン設定に "セミトリプシン "を追加指定したところ、新たに9つのタンパク質において14のプロヘッドプロテアーゼ切断部位が同定されました。
最後に、ORF_0139についてゲノム上の座標を修正しました。これらはGenBank Accession JN641803の116,201-117,043に当たります。
Mascotニューズレターで取り上げてほしい話題や研究論文がありましたらぜひご紹介ください。また、Mascotニューズレターの内容に関してお気づきの点やご質問などありましたらご連絡ください。
ジスクシンイミジルスルホキシド(DSSO)は一般的に使用される架橋試薬で、CID切断可能な架橋とインタクト架橋の両方の分析に適しています。Unimodでは「Xlink:DSSO」という設定があり、Mascot Serverにも標準設定で含まれています(注:ver.2.7以降のみ)。そのためMascotでDSSOを使った解析を始めるために必要な事は、データベースとして解析対象のタンパク質配列を含むデータベースを準備する事と、クロスリンク用の設定を作成する事だけです。クロスリンク用の設定では、対象となるリンカーの性質を定義した「linker」の選択やその挙動の定義、並びに解析対象となるタンパク質配列のAccessionを指定します。
ASMS2023ユーザーミーティングにおいてSusan Weintraub教授が発表された内容では、Mascotを用いたDSSO架橋実験のセットアップについて設定操作を詳しく説明されました。このスライドは現在、弊社ASMS2023のウェブサイトでご覧いただけます:Connecting the Prots: Analyzing Crosslinked Data in a Core Lab Using Mascot.
また、クロスリンク検索に関する新しいトレーニングコースのモジュールでは検索結果の検証についても触れているほか、Mascot Distillerを使ったインタクトなクロスリンクペプチドスペクトルのピーク抽出方法(英語版、日本語版)についてもご紹介しています。 クロスリンクペプチドの検索についてご質問などございましたらお気軽にsupport-jp@matrixscience.comまでご質問ください。
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