2023年8月号 (#105)

今月のブログは、クエリー分割サイズ設定の変更による検索速度上昇に関する記事のご紹介です。

今月の論文は、効率的なイオンモビリティー分離によってヒストンの修飾部位を解明する研究です。

今月の小技では、Mascot Distiller 2.8.4についてです。

Mascotニューズレターのバックナンバーはこのページ(英語版日本語版)からご覧いただけます。ご一読の上、ご意見・ご質問等ございましたら、お気軽にお問い合わせください。

MASCOT : 25年間にわたり信頼を受けてきた、質量分析によるタンパク質同定のリファレンススタンダード

ちょっとした設定変更で検索速度向上

Mascotは、データベース検索のためにピークリストを送信すると、スペクトルをペプチド質量順に並べ替え、さらにいくつかのデータの塊(チャンク)に分割します。分割によって検索中の最大メモリ(RAM)使用量が減り、非常に効率的なメモリキャッシュを実現します。またクラスターシステムにおいては各ノードでの検索スペースが同一であるため、クエリーデータの分割化がノード・マスター間での効率的なデータ引き渡しを可能にします。

デフォルトのデータ分割サイズは1000クエリー(MS/MSスペクトル)ですが、これを2000に増やすと、RAMの使用量が増える代わりに10~20%の検索速度向上が得られます。この設定を司るパラメーターが「SplitNumberOfQueries」です。関連パラメーターとしてもう1つ、「SplitDataFileSize」もあります。

ハードウェア・ソフトウェア・データの組み合わせにより、パラメーターの最適値が何であるかが変わってくる可能性があります。そのため最適値を見つける唯一の方法は、実際に検索をして試すことです。

検索テストについての最適な方法が気になる方は、ブログ記事(英語版日本語版)をご覧ください。公開されている複数種のデータセットを使用した検索テストを実施しています。テストには、ミドルレンジ[CPU:Intel Core i5]のノートパソコン、並びにワークステーション[CPU:AMD Ryzen 9プロセッサー、ディスク:RAIDアレイ構成]にインストールしたMASCOTを使用しています。パラメーター「SplitNumberOfQueries」について、ノートパソコンでは1500に、ワークステーションでは2000に設定値を増やしたところ、検索速度がそれぞれ10%と21% 向上しました。

サイクリックイオンモビリティー、ECD (Electron Capture Dissociation,電子捕獲解離)、ミドルダウンプロテオミクスによる、異性体プロテオフォームの完全分離と配列決定

Full Separation and Sequencing of Isomeric Proteoforms in the Middle-Down Mass Range Using Cyclic Ion Mobility and Electron Capture Dissociation

Francis Berthias, Dale A. Cooper-Shepherd, Frederik H. V. Holck, James I. Langridge, and Ole N. Jensen

Anal. Chem. 95, 29, 11141–11148

著者らは、Electron Capture Dissociation(ECD)と組み合わせた高分解能サイクリックイオンモビリティ(cyclic Ion Mobility,cIM)が、ヒストンN末端の翻訳後修飾の位置が異なるタンパク質を分離・同定する能力について調べました。 異性体タンパク質として、合成モノおよびトリメチル化異性体セット: H3K4me1/H3K9me1/H3K23me1 と、H3K4me3/H3K9me3/H3K23me3 を使用しました。

モノメチルの異性体混合物の分離は、10+の電荷状態でデータが得られました。H3K9me1, H3K23me1,H3K4me1に対応する151.6、153.3、156.5 msの3つの明瞭なピークが示されています。一方、トリメチルの異性体混合物の分離は11+の電荷状態でデータが得られました。 H3K4me3とH3K9me3, H3K4me3とH3K23me3, H3K9me3とH3K23me3 は、それぞれr = 0.90、2.18、1.28となりました。

ECDによって質量分析の測定を行い、cIMによる分離が可能であった事、並びにアミノ酸配列カバー率も90-100%を達成したことを示しました。さらにMS/MSスペクトルの解析により、各モノメチル並びにトリメチル異性体のメチル基の位置を確認する事ができました。

Mascotニューズレターで取り上げてほしい話題や研究論文がありましたらぜひご紹介ください。また、Mascotニューズレターの内容に関してお気づきの点やご質問などありましたらご連絡ください。

Mascot Distiller 2.8.4

Illustration for Mascot Tip

Mascot Distiller 2.8.4がリリースされました。このマイナーパッチリリースには、Agilent 6546 LC/QTOFデータのサポートや、Thermo Orbitrap Exploris 480の電荷状態に関する問題を修正するなど、いくつかの重要なバグ修正が含まれています。Distiller 2.8のすべてのユーザーは、無償の2.8.4パッチをインストールしてアップデートを適用してください。

最新パッチへのアップデートは、次のメジャーバージョンまで無料です(訳者補足:これまでDistillerはすべて無料でメジャーアップデートしてきましたが、次から有料化する事を予定しています。ver.2.8が無料アップデート適用の最後のメジャーバージョンとなる予定です。)。Distiller 2.8では、ラベルフリー定量、保持時間のアライメント、定量レポートなど、様々な機能追加が行われました。今回のアップデートで新しいプロダクトキーは必要ありません。最新バージョンをダウンロードしてインストールするだけでアップデートが実施されます。

インストーラーはこちらから入手してください。また修正点についてまとめたリストはこちらをご覧ください。

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