今月のブログは、論文のmethods セクション記述の際に重要である解析ソフトウェアのバージョンについての記事です。
今月の論文は、糖タンパク質の特性解析に関する新しい手法です。
今月の小技では、Mascot Server 2.8.3についてです。
Mascotニューズレターのバックナンバーはこのページ(英語版、日本語版)からご覧いただけます。ご一読の上、ご意見・ご質問等ございましたら、お気軽にお問い合わせください。
最近ご覧になったプロテオミクスの論文を思い出してください。 タンパク質の同定に使用したソフトウェアのバージョン番号が、methodセクションに記載されていましたか? バージョン番号はデータ解析の質と再現性を評価するために不可欠な情報です。
Mascot Serverでも、10年前にリリースされたMascot Server 2.4を使って内因性ペプチドを同定した結果について、バージョン2.8を使って検索を繰り返してみると結果が改善され、新たに多くのペプチドを見つける事ができる可能性があります(訳者注:MASCOTアップデートの内容にPercolatorのバージョンアップが含まれており、保持時間情報を使った検索を行う事で同定ペプチド数を増やす事ができます。詳しくはブログ記事(英語版、日本語版)をご覧ください)。
また、ソフトウェアのリリース日やリリース年も記載すると読者に対して親切でしょう。多くのソフトウェアパッケージは頻繁にリリースされており、バージョン番号からそのソフトウェアが何年前のものかがわかる人はほとんどいません。
実験の計画から実施、論文発表までには長い時間がかかる事もしばしばで、古いバージョンのソフトウェアの利用を続けなければならないケースもあるかと思います。一方、実験に使用したソフトウェアが非常に古い場合、より新しいバージョンを使うことでデータ解析がどれだけ改善されるかというのも気になる話題ではないかと思います。
Mascot Serverの再現性についての詳細や、バージョン番号からMascot Serverのリリース日を調べる方法については、ブログ記事(英語版、日本語版)をご覧ください。
Fredrik Noborn, Jonas Nilsson, Carina Sihlbom, Mahnaz Nikpour, Lena Kjellén, Göran Larson
Mol Cell Proteomics (2023) 22, 100617
著者らはヒトのコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG, Chondroitin Sulfate ProteoGlycans)のコアペプチドの配列並びに結合部位を同定する方法を開発しました。CSPGとは様々なコアタンパク質に結合したコンドロイチン硫酸(CS)多糖から構成されています。
CSPGを含むサンプルをトリプシン消化し、続いて強アニオン交換クロマトグラフィーを用いてCS糖ペプチドの濃縮を行いました。濃縮された糖ペプチドをコンドロイチナーゼABCとインキュベートしてCS多糖部分を解重合しました。これらの処理により、ペプチドとそのペプチドに結合したままの6~18mer多糖の構造が残ります。
サンプルはLC-MS/MSで分析され、データベース検索は[HexA(-H2O)GalNAcGlcAGalGalXyl-O-]の残存6-mer構造に0、1、2個の硫酸基またはリン酸基が結合したケースを想定したVariable modification設定を含めて実施しました。解析の結果、21個の既知のCSPGと5個の新規CSPGを同定する事ができました。また8~18-merについても同様の解析が適用可能である事が確認されました。これらの結果を統計的に解析したところ、CSの硫酸化の度合いは結合モチーフの酸性度と相関がある事が示されました。
Mascotニューズレターで取り上げてほしい話題や研究論文がありましたらぜひご紹介ください。また、Mascotニューズレターの内容に関してお気づきの点やご質問などありましたらご連絡ください。
Mascot Server 2.8.3がリリースされました。 このパッチでは、検索エンジンに関して6つ、結果表示などのPerlスクリプトに関して4つ、ms-monitor.exeの誤ったログメッセージについて1つ、AMD EPYCプロセッサのライセンスに関する1つ、のバグが修正されています。詳細はアナウンスのページをご覧ください。
バージョン2.8のライセンスをお持ちの方はアップデートプログラムをインストールしてください。インストーラーはサポートページからダウンロード可能で、2.8.0、2.8.1、2.8.2いずれからでも実施できます。操作手順は日本語資料(Windows版のみ) 、または公式サイトへ接続後画面を下にスクロールし”Windows Update Procedure”や”Linux Update Procedure”の項目をご覧ください。ページの下部には 2.8.0からの累積変更の内容が記されたリストも表示されています。
利用可能な対象者はver.2.8 をご利用の権利をお持ちのユーザーのみです。詳細は弊社サポートまでお問い合わせください。
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