2023年10月号 (#107)

今月のブログは、20周年を迎えたMascot Distillerについての記事です。

今月の論文は、牛の結核を迅速に検出するための研究です。

今月の小技は、Mascot Daemon を使ったDistiller の定量レポート作成の自動化についてです。

Mascotニューズレターのバックナンバーはこのページ(英語版日本語版)からご覧いただけます。ご一読の上、ご意見・ご質問等ございましたら、お気軽にお問い合わせください。

MASCOT : 25年間にわたり信頼を受けてきた、質量分析によるタンパク質同定のリファレンススタンダード

Mascot Distiller 20周年

今から20年前、Mascot Distiller 1.0は、クロスプラットフォーム環境で単一のユーザーインターフェースを用い、rawデータの処理とデータ閲覧を行う事を目的に発売されました。 当時も現在も多くのラボでは複数のメーカーの装置を使用しています。どの装置からのデータでも処理できる統一されたインターフェースを持つことは、解析手法の一貫性が維持されるだけでなく、操作の学習の労力を最小限に抑える事ができるというメリットがあります。

この20年間、11回のメジャー・リリースと24回のパッチ・リリースという絶え間ない開発が行われ、機能面や使いやすさで改善がもたらされました。 改良のためのアイデアや提案を提供してくれたユーザーの皆様、誠にありがとうございます。

以下は、オリジナルのDistillerに追加されたToolboxです:

  • Daemon Toolbox: Mascot Daemonを使いDistiller処理を自動化

  • Developer Toolbox: Distillerピーク抽出モジュールを、各々が開発したWindowsアプリケーションから呼び出す
  • Search Toolbox: de novoシーケンスおよびMascot Serverとのデータベース検索の統合を提供
  • Quantitation Toolbox: アイソバリック、アイソトピック、ラベルフリーの定量解析をサポート

さらに、定量分析のレポート機能、使いやすさ、計算速度、データ処理のスケーリングなど、長年にわたり大幅に改善されてきました。 Mascot Distillerの進化と、ソフトウェアがワークフローや分析をどのように促進するかについては、ブログ記事(英語版日本語版)をご覧ください。

また、Mascot Distillerの評価をご希望の方は、30日間の無料トライアルが可能です。メールでご連絡ください。

LAP-MALDI MSプロファイリングと牛結核検出のための潜在的バイオマーカーの同定

LAP-MALDI MS Profiling and Identification of Potential Biomarkers for the Detection of Bovine Tuberculosis

Sophie E. Lellman, Christopher K. Reynolds, A.K. Barney Jones, Nick Taylor, and Rainer Cramer

J.Agric.Food Chem.2023, 71, 13899-13905

牛結核(bovine TuBerculosis,bTB)は世界中に広がっている疾病です。牛の個体群に壊滅的な打撃を与え、酪農に深刻な経済的・社会的影響を及ぼすとともに、人畜共通感染症として人にも重大なリスクをもたらします。2021年、英国はbTBにより約1億ポンドの損害を被り、27,000頭以上の牛が防疫のために屠殺されました。

著者らはLAP(Liquid Atmospheric Pressure)-MALDI MSを用いてbTB を検出する方法について検討しました。サンプルとして、健康な牛、結核の牛、乳房炎の牛から95の鼻腔スワブ検体を採取しました。サンプルは、タンパク質沈殿、還元アルキル化、トリプシン消化、C18 ZipTipsを用いた精製という過程で処理されましたが、調整にかかった時間は全部で4時間未満でした(標準的な検査法では72時間)。精製されたサンプルは、LAP-MALDI MSプロファイリング並びにLAP-MALDI MS/MSで解析されました。

MSプロファイリングは、教師あり線形判別分析(LDA, Linear Discriminant Analysis)と次元削減のため主成分分析(PCA)を用いて分析されました。 その結果、bTBを識別するための3クラス予測モデルが開発され、全体の分類精度は85.7%、bTB検出感度は75.0%、特異度は90.1%でした。また詳細なMS/MS分析により、牛のタンパク質S100-A12が健康な牛と病気の牛の識別に重要なタンパク質であることが特定されました。

Mascotニューズレターで取り上げてほしい話題や研究論文がありましたらぜひご紹介ください。また、Mascotニューズレターの内容に関してお気づきの点やご質問などありましたらご連絡ください。

Distiller定量計算レポートの自動化

Illustration for Mascot Tip

Mascot Daemonには”External Processes Dialog”という強力な機能があり、タスク開始時/検索前/検索後/タスク完了後、といったタイミングでスクリプトやプログラムを実行させる事ができます。 ただし、1つのタイミングにつき1つの外部タスクしか呼び出すことができません。場合によっては解析のニーズにこたえる事ができません。

その問題回避のための一時的な対処法として、私たちは補助となるperl スクリプトを作成しました。Mascot Daemon eXport Extender(MDXE)と名付けたそのスクリプトは、1つのタイミングで複数のスクリプトを実行する事ができ、さらに複数のDistillerプロジェクトのバッチ処理を実行可能です。複数のRAWファイルを1つのDaemonタスクとして処理させる場合に非常に便利です。

検索と定量計算が完了した後、Distillerの定量レポートを自動的にファイル出力する、といったケースに応用できます。 MDXEのダウンロードとインストール方法は、このブログ記事(英語版日本語版)でご案内しています。使い方は簡単で、デフォルト設定をコピーし、Distillerレポートの出力を有効か無効かの設定をして、Daemonの "After completing task "ステップとしてMDXEを動かすコマンドを記述するだけです。

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