今月のブログは、ABRF iPRG 2023 Crosslinking study についてです。ABRF iPRG 2023 Crosslinking studyは1月15日まで実施されています。参加される方は、データ解析にはインターネット公開版のまたはインハウス版のMascotを是非ご利用ください。
今月の論文は、CRISPRノックアウトを用いて、タンパク質の安定性におけるN末端アセチル化の役割を示した論文です。
今月の小技は、インターナルフラグメントピークの検索への適用についてです。
Mascotニューズレターのバックナンバーはこのページ(英語版、日本語版)からご覧いただけます。ご一読の上、ご意見・ご質問等ございましたら、お気軽にお問い合わせください。
ABRF proteome informatics research group(iPRG)は、この度新たにcrosslinking studyを立ち上げました。
リンク先のページに記された内容を一部引用します。
この研究の目的は、プロテオミクス研究者のコミュニティから、クロスリンクペプチドのMSデータ解析に関する様々なアプローチについての情報を得ること、利用可能な多数の異なるパイプライン・ツールを紹介すること、およびクロスリンクMSデータの検索結果プレゼンテーションを改善するためのガイダンスを提供することです。
私たちは、クロスリンク解析において皆様が良い結果を得る事ができるよう、Mascotのチュートリアルを準備しています。是非ご覧ください。以下は解析に必要な手順の概要です:
製品版マスコット・サーバーをお持ちでない方で、このデータセットを検索してみたい方は、公開されているマスコット・サーバーをぜひご利用ください。ただし、全データセットを検索できるよう、制限を拡大した無料の一時アカウントを準備する必要があるかもしれません。ご希望の場合は、こちらまでご連絡ください(注:リンク先は英国サイトへ直接連絡するリンクです。日本語でのやり取りを希望される場合、日本サポートまでご連絡ください)。
データは高分解能MS/MSです。私たちはMascot Distillerでピーク抽出処理を行いました。クロスリンクペプチドはその構造から通常のペプチドと比べると質量が非常に高い値になる事があり、電荷状態も高くなります。3価以上のフラグメントイオンピークについてはNH+にデチャージ(1価換算)するか、MGFファイルの各行にピークの電荷情報を一緒に出力する事で、多価のピークも検索に利用する事ができ、お勧めします。
チュートリアルの最後のパートは、結果の解析についてです。私たちは以前、インタクトなクロスリンクペプチドのマッチを検証するためのガイドラインをいくつか発表しました。それらのガイドラインを使って、良いマッチがどのように見えるか、クロスリンクを検証するのに十分な情報とはいえないのかを判断できます。
チュートリアルのより詳しい内容、並びにデータファイルをダウンロードするには、私たちのブログ(英語版、日本語版)をご覧ください。
Sylvia Varland, Rui Duarte Silva, Ine Kjosås, Alexandra Faustino, Annelies Bogaert, Maximilian Billmann, Hadi Boukhatmi, Barbara Kellen, Michael Costanzo, Adrian Drazic, Camilla Osberg, Katherine Chan, Xiang Zhang, Amy Hin Yan Tong, Simonetta Andreazza, Juliette J. Lee, Lyudmila Nedyalkova, Matej Ušaj, Alexander J. Whitworth, Brenda J. Andrews, Jason Moffat, Chad L. Myers, Kris Gevaert, Charles Boone, Rui Gonçalo Martinho & Thomas Arnesen
著者らは、N末端アセチル化がタンパク質の安定性と分解において果たす役割について研究しました。同時に、細胞プロセス、寿命、運動性への影響についても調べています。この研究では、ヒトHAP1細胞とショウジョウバエDrosophila melanogasterに対するゲノムワイドなCRISPRノックアウトスクリーニングを行いました。 その結果、N末端アセチル化が、疎水性のN末端をターゲットとした分解から守り、アセチル基転移酵素NatCの変動が小胞輸送とオルガネラの形態を制御していることが明らかになりました。
この研究では、次世代シーケンサー、フローサイトメトリー解析、セルソーティング、共焦点イメージング、イムノブロット解析、MSプロテオミクスといった解析方法が適用されています。 MS解析では、低pHの強陽イオン交換クロマトグラフィーを用いてN末端ペプチドを濃縮しています。 生体内でおきるN末端アセチル化の検出を可能にするため、タンパク質のすべての一次アミンを、重同位体を含む酢酸のN-ヒドロキシスクシンイミドエステルを使ってタンパク質レベルでブロックしました。 これにより、in vivoと in vitroでアセチル化されたN末端を区別し、両者のうちin vivoで発生したN末端-アセチル化の割合を計算することが可能になりました。スペクトルデータは2回検索され 1回目はアセチル化されたN末端の定量解析、2回目はN末端ではないアセチル化ペプチドを特定するために検索されました。生体内でアセチル化された割合については、Mascot Distiller (+Quantitation モジュール)で計算された light/heavy比を用いて別々に計算しました。
HAP1 WT細胞およびアセチル基転移酵素がノックアウト(KO)された細胞の定量比較をするラベルフリー定量解析により、WTとKOの間で発現に差のある440のタンパク質が、多重ANOVA検定を用いて特定されました。 ANOVAで有意と判例されたタンパク質のうち346個は、少なくとも1つのペアワイズ比較でも有意とみなされ、WTと比較して66%が減少、逆に34%は増加しています。
Mascotニューズレターで取り上げてほしい話題や研究論文がありましたらぜひご紹介ください。また、Mascotニューズレターの内容に関してお気づきの点やご質問などありましたらご連絡ください。
高エネルギー衝突解離(Higher-energy Collisional Dissociation, HCD) は内部開裂(インターナルフラグメント)イオンを生成する傾向があります。Mascotはインターナルフラグメントのマッチングをサポートしていますが、デフォルト設定では考慮しません。HCDデータの解析にはインターナルフラグメントイオンを考慮した検索を試してみることをお勧めします。
2023年7月のブログ(英語版、日本語版)にて、コールド・スプリング・ハーバー研究所のDarryl Pappin氏による非常に素晴らしい解析例をご紹介しています。解析に使用されたデータは81,267クエリーのQCインジェクションです。yaと ybシリーズを有効にするだけで、PSM FDR 1%で16%マッチが増え、ペプチド配列のカウントでは13%増えました。インターナルフラグメントイオンへのマッチングを考慮することで、Mascotはそれまでノイズと判定していたピークをインターナルフラグメントピークとしてラベル付けすることができ、マッチスコアが向上する傾向があります。また、クロスリンクペプチドのデータ解析においても有効です。この解析では全体に渡るフラグメンテーションは疎である一方、インターナルフラグメントが2つのクロスリンク鎖の一方または他方の唯一の良い証拠となるケースもしばしばみられるからです。
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