あけましておめでとうございます

今月のブログは、狭いウィンドウ幅・スペクトル中心的なDIA解析に対するMASCOTの適用です。

今月の論文は、DNA損傷修復に関与するユビキチン化タンパク質の測定についてです。

今月の小技は、特にMascot Server 2.7以前をご利用のお客様向けに、Windows Server 2019メインストリームサポート終了とその影響についてです。

Mascotニューズレターのバックナンバーはこのページ(英語版日本語版)からご覧いただけます。ご一読の上、ご意見・ご質問等ございましたら、お気軽にお問い合わせください。

MASCOT : 25年間にわたり信頼を受けてきた、質量分析によるタンパク質同定のリファレンススタンダード

狭いウィンドウ幅・スペクトル中心的なDIA解析

Data Independent Acquisition (DIA) スペクトルは、実験または予測されたMS/MSスペクトルのライブラリを観測されたスペクトルと比較する、ペプチド中心のアプローチで分析されるのが一般的です。 一方、スペクトル中心のDIA解析では実験または予測されたスペクトルライブラリを必要としません。

スペクトル中心のアプローチには、想定外の修飾を探索する上で明確な利点があります。ペプチド中心の検索の場合、実験的ライブラリを使うのなら答えとなる測定データを予め測定し同定しておく必要があり、予測ライブラリを使う場合は、モデルに使用するトレーニングデータに目的の修飾を含ませた上で正しく予測できているという前提が必要になります。その他、スペクトル中心のマッチングでは結果の解釈や視覚化が容易です。また、スペクトルは独立して検索可能であるため、検索を複数のプロセッサー間で並行計算させる事も容易に可能です。

今回、Mascot ServerとMascot Distillerを使用して、20人の癌患者と非癌患者を対象とした前立腺癌研究で使用された、狭いウィンドウ幅(8 m/z)のDIAデータセットを解析しました。Mascot Daemonを使用し、ピーク抽出と検索登録を自動化処理しています。選択された1%のPSM FDRにおいて、4,296のタンパク質ヒットと20,500のペプチド配列をカバーする160万の有意なPSMを発見しました。

また、各ラン間のマッチングと保持時間補正を実施した上で、データセット全体のラベルフリー定量を行いました。ほとんどの成分でXIC領域全体にわたってペプチドの一致が見られ、信頼性が高い同定結果でした。

MASCOTを使った、狭いウィンドウ幅のDIAデータ解析について詳しくは私たちのブログ(英語版日本語版)をご覧ください。

プロテオームワイドアプローチによる、酵母Saccharomyces cerevisiaeのユビキチン化並びにDNA損傷応答経路の解明

Dissecting ubiquitylation and DNA damage response pathways in the yeast Saccharomyces cerevisiae using a proteome-wide approach

Ewa Blaszczak、Emeline Pasquier、Gaëlle Le Dez、Adrian Odrzywolski、Natalia Lazarewicz、Audrey Brossard、Emilia Fornal、Piotr Moskalek、Robert Wysocki、Gwenaël Rabut

Molecular & Cellular Proteomics, Published online: December 13, 2023

DNA損傷応答(DNA Damage Response,DDR)において、ユビキチンは関連タンパク質の局在、活性、安定性を制御することにより重要な役割を果たしています。DNA損傷の修復不全は、ヒトにおける癌の発生や早期老化の根本的な原因です。 本研究で著者らは、DNAアルキル化剤メチルメタンスルホン酸(MMS)で処理した場合の、酵母のユビキチン化の変化について調べました。

定量解析のため、「軽い」(12C614N2)または「重い」(13C614N2)リジンを添加した2種類の培地(リジンとロイシンを含まない)で酵母細胞を培養しました。培養の最後の1時間に、「重い」リジンで培養した細胞側にMMSを添加しました。MMSを添加した細胞と添加しない細胞を1:1の割合で混合し、細胞を回収し、タンパク質を抽出しました。ユビキチン化タンパク質を固定化金属アフィニティークロマトグラフィーで濃縮し、Lys-C、続いてトリプシンで消化しました。ユビキチン化ペプチドは、抗K-ε-GG抗体コートビーズを用いてさらに精製しました。これらのペプチドを逆相媒体で分画しLC/MS-MSで分析しました。データベース検索時に可変翻訳後修飾として、メチオニン酸化、ユビキチンのジグリシン残基(-GG、114.04 Da)とLeu-Arg-Gly-Gly残基(-LRGG、1回のトリプシン切断ミスにより生成、383.23 Da)を設定しました。

著者らは、1853個のタンパク質に対応する5397個のK-ε-GGペプチドに対して定量解析を行いしました。 これらのうち、473のタンパク質・556のペプチドがMMS処理に反応して2倍以上アップレギュレートされ、513のタンパク質・644のペプチドがダウンレギュレートされている事がわかりました。MMSに反応して有意にアップレギュレートされたペプチドは、435のタンパク質中・519か所のユビキチン残基の局在化を可能にし、そのうちの260(50%)はBioGrid相互作用リポジトリーで参照されておらず、新規の発見である可能性があります。

Mascotニューズレターで取り上げてほしい話題や研究論文がありましたらぜひご紹介ください。また、Mascotニューズレターの内容に関してお気づきの点やご質問などありましたらご連絡ください。

Windows Server 2019

Illustration for Mascot Tip

このニューズレターをお読みになる頃、2024年1月9日にマイクロソフトはWindows Server 2019のメインストリームサポートを終了しています。 またWindows 10のメインストリームサポートは18ヶ月後の2025年10月に終了します。 Windows上でMascot Serverを運用している場合Mascotは引き続き動作しますが、IT担当者からOSのアップデートを要求されるかもしれません。

Mascot Server 2.8はWindows 11とServer 2022を完全にサポートしています。 Windowsのアップデートは簡単で、それによりMascotの動作に不具合が生じる事はありません。

しかしMascot Server 2.6および2.7では、Mascotに同梱されているサードパーティのPerlモジュールの不具合(日本語英語)により、Windows 11およびServer 2022上で正常に動作しません。 Windowsアップデートのバージョンなどにより、Database Managerが動作しなくなったり、Mascot CGIスクリプトすべてが動作しなくなります。2023年10月のWindowsセキュリティアップデート(OS Build 17763.4974)後に、一部のWindows Server 2019システムではこの問題が発生する事が確認されています。

最も簡単かつ迅速な対処方法は、Mascot Server 2.8にアップデートして頂く事です。Windows11の適用をお考えの方は、必ずMASCOT Serverのアップデートもご一緒にご検討ください。

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