2024年8月号 (#117)

今月のブログは、誕生から30年が経過した、シーケンスタグ法についての紹介です。

今月の論文は、ピーナッツアレルゲンのプロテオームに関する研究です。

今月の小技は、Mascotトレーニングコースに関するご紹介です。

Mascotニューズレターのバックナンバーはこのページ(英語版日本語版)からご覧いただけます。ご一読の上、ご意見・ご質問等ございましたら、お気軽にお問い合わせください。

シーケンスタグの30年 - そしてこれからも続く

1994年当時、”Seqeuence Tag” を用いたペプチド同定を行うためには、MS/MSスペクトルを紙に印刷し、(OHPで使用するような)透明なアセテートフィルムの上に定規の線でアライメントを実施する必要がありました。 アミノ酸質量をそこにマークして配列タグを見つけ、それをクエリーとして投げて配列データベースに対して検索を行いました。

近年の手法では配列タグは基本的に使われなくなりましたが、特殊なケースでの配列同定においては役立つケースもあるでしょう。 その一つが、error tolerant タグ(etag)検索です。思わぬ修飾や一塩基多型などの配列のわずかな違いも許容した検索です。Etag検索ではペプチドの質量に関する制約が緩和され、フラグメントイオンの質量値は質量変更がある/ない、2つの可能性のどちらかに当てはまればよい事になります。 両方の値が変更されない場合と、両方の値がペプチドの質量と同じ量だけシフトする場合の両方を考慮する事ができます。

Error Tolerant sequenceタグ検索は、標準検索・Error Tolerant 検索・de novoシーケンシングといった検索の後に行われる、最後のステップと言える手法です。あなたが特殊な問題に面した際の対処法として、etagsはツールボックスに入れておくと便利なテクニックです。

1994年にEBMLで行われていたペプチドシークエンシングについて、詳しくはブログ記事(英語版日本語版)をご覧ください。

Rhizopus oryzaeによって発酵させたピーナッツ粉のプロテオミクス

Proteomic characterization of peanut flour fermented by Rhizopus oryzae

Christopher P. Mattison, Rebecca A. Dupre, Kristen Clermont, John G. Gibbons, Jae-Hyuk Yu

Heliyon 10, e34793 (2024)

ピーナッツ(Arachis hypogaea)は食物アレルギーを引き起こす8つの食品のひとつであり、3つの主要な免疫優性ピーナッツアレルゲン:Ara h 1, Ara h 2, Ara h 3,が存在します。この研究では、発酵処理がこれらのアレルゲンを低減または除去し、ピーナッツ・アレルギー患者にとって安全な食品とするための代替加工処理として有効かどうかについて検討しています。

著者らはピーナッツ粉をRhizopus oryzaeで発酵させ、発酵4/8/16/24/48時間後に混合物をサンプリングしました。タンパク質を抽出しSDS-PAGEにかけた後、ゲル内消化とLC-MS/MS分析を行いました。ピーナッツアレルゲンを同定するため、検索はArachis hypogaeaデータベースに対して実行されました。また、Mascot Distiller Quantitation Toolboxを使用し、Replicateプロトコルによるラベルフリー定量を行いました。

解析の結果、未発酵サンプルと比較してインタクトなアレルゲンタンパク質の減少がペプチド強度比の変化によって示されました。しかしながら48時間発酵させたサンプルにおいてもゲル消化物のMSは依然として有意な量のAra h 1およびAra h 3ペプチドを含んでいました。またイムノブロット分析の結果も、発酵時間の経過とともにピーナッツ・アレルゲンがいくらか減少することを示しました。著者らは、このような条件下でR. oryzaeで発酵させたピーナッツ粉は、依然ピーナッツアレルギーのある人には適さない、と結論づけました。

Mascotニューズレターで取り上げてほしい話題や研究論文がありましたらぜひご紹介ください。また、Mascotニューズレターの内容に関してお気づきの点やご質問などありましたらご連絡ください。

etag(error tolerant sequence tag)の練習

Illustration for Mascot

Mascot Distiller Search Toolboxには、de novoシーケンスアルゴリズムが含まれています。de novo 検索を実施するには、まずDistillerでMS/MSスキャンからピークリストを作成してください。Distiller上で計算によって生成された短い配列タグのクエリーを作成します。そのクエリーをMASCOT Serverに投げ、データベースから適切なペプチドを引き出すための検索、シーケンスクエリーを実施する事ができます。

私たちが公開しているトレーニングコースのSequence Queriesのパートには、Error Tolerant Sequence tag検索に関する詳細な説明と例があります。Exercise SQ3では、ペプチド中の未知の修飾を同定するためにetagを使用しています。 ヒントと答えが提供されていますが、etagの有用性を確認するためにも、是非ご自身でお試しください。 Mascot Distillerの30日間無料ライセンスを発行する事ができますので、ご希望の方は是非弊社までご連絡ください。

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