2024年11月号 (#120)

今月のブログは、MASCOT 3.0の新機能、予測保持時間を利用してより多くのペプチドを同定する方法についてです。

今月の論文は、細胞小器官のタンパク質のN末端メチル化に関する研究です。

今月のおしらせは、Mascotのアップデートと、他ソフトウェアへの影響に関するご案内です。

youtube: Mascotの新しいバージョンに搭載された機能を紹介する動画を公開しています。

Mascotニューズレターのバックナンバーはこのページ(英語版日本語版)からご覧いただけます。ご一読の上、ご意見・ご質問等ございましたら、お気軽にお問い合わせください。

最適なDeepLCモデルを選択する

Mascot Server 3.0には、畳み込みニューラルネットワーク(深層学習)アーキテクチャを使用した保持時間(RT)予測ツールであるDeepLCが含まれています。MascotにてRT予測を使用するのは、データベース検索結果の感度を向上させるためです(訳者注:同定ペプチド数を増加させる、と同意)。利用するためにはまず、カラムタイプと実験パラメーターに適したDeepLCモデルを選択します。Mascotは実測RTと予測RTの差分を計算し、コアフィーチャーと組み合わせます。次に、半教師あり機械学習アルゴリズムであるPercolatorが、コアフィーチャーとRT差分に基づき、正解と不正解を最も効率よく分けるポイントを探します。予測RTは、MS/MSスペクトルとは大きく内容が異なる要素で補足情報としての役割が大きい可能性があります。

Mascotには、カラムや実験の種類ごとに20種類のモデルが搭載されていますが、それらをすべて順番に試す必要はありません。 ショートリストを作成する手順は今回ご紹介するブログ記事内にて説明されています。 実験条件に適したモデルが見つかれば、そのモデルをデフォルトとしてDaemonパラメータエディタに保存するか、検索フォームのデフォルトとしてクッキーに保存してご利用ください。

Mascotは機械学習に関するレポートを提供します。このレポートにはDeepLCモデルのパフォーマンスに関する指標と視覚化が含まれており、選択したモデルがデータに適しているかどうかを素早く評価するのに役立ちます。

詳細なチュートリアルはブログ記事(英語版日本語版)をご覧ください。

Physcomitrella N-terminomeのスナップショットが明らかにした、オルガネラタンパク質のN末端メチル化

A snapshot of the Physcomitrella N-terminome reveals N-terminal methylation of organellar proteins

Sebastian N. W. Hoernstein, Andreas Schlosser, Kathrin Fiedler, Nico van Gessel, Gabor L. Igloi, Daniel Lang & Ralf Reski

Plant Cell Reports, 43, 250 (2024)

著者らは、PhyscomitrellaにおけるN末端のアセチル化とメチル化を調べるため、24の異なる実験から得られたプロテオミクスデータを使用しました。Physcomitrellaは基礎研究に広く応用されている汎用性の高いモデル生物であるだけでなく、組み換えバイオ医薬品の生産プラットフォームとしても利用されています。

24の実験では、さまざまな組織や処理タイプが対象となっています。各実験では、N末端ペプチドの濃縮が行われ、遊離アミノ基は還元ジメチル化によってブロックされ、タンパク質分解後に内部ペプチドは除去されました。LC-MS/MS分析後、スペクトルはMascotで検索され、Scaffold 5に結果を取り込みました。同定基準としてペプチドFDRが0.08%、タンパク質FDRが0.4%という厳格な基準を適用し、4517種のタンパク質に対応する11,533種のタンパク質N末端を同定しました。同定されたN末端の約25%はアセチル化されており、4%はメチル化またはピログルタミン酸が検出されました。これらの新しいデータは今後、予測ツールの最適化や、カスタマイズされたタンパク質融合のターゲット局在化に利用することができます。

著者の想定を超える発見もありました。葉緑体およびミトコンドリアタンパク質のN末端モノメチル化は、N末端のアラニン、セリン、およびメチオニンに影響を与えていました。著者らは、PpNTM1(P. patens αN末端タンパク質メチルトランスフェラーゼ1)を、葉緑体、ミトコンドリア、細胞質におけるタンパク質メチル化の役割を担う候補として提案しています。

Mascotニューズレターで取り上げてほしい話題や研究論文がありましたらぜひご紹介ください。また、Mascotニューズレターの内容に関してお気づきの点やご質問などありましたらご連絡ください。

Mascot Server 3.0 との互換性

Illustration for Mascot

Mascot Server 3.0 へのアップデートは簡単です。インストーラーパッケージをダウンロードし、setup64.exe(Windows)を実行するか、既存のインストール上にファイルを解凍・展開するだけです(Linux)。弊社では、アプリケーションプログラミングインターフェース(Application Programming Interfaces, API)と既存の検索結果との下位互換性を維持するため、最大限の努力を払ってきました。サードパーティアプリケーション、MASCOTに関連するソフトウェアとの間にはいくつかの既知の問題がありますが、いずれも回避策があります。

Proteome Discoverer (Thermo Scientific): Mascot ノードはバージョンチェックを行いますが、これはメジャーバージョン番号が 2.x であることを想定しているため、新しいバージョン3.x では失敗します。 弊社ウェブサイトから修正スクリプトを入手できます。またThermo fisher社からは、次期バージョンの Proteome Discoverer でこのバグが修正される予定であるとの連絡を受けています。

Scaffold (Proteome Software): 現行バージョンのScaffoldは、旧形式(.dat)の結果のみをサポートしています。Mascotの結果レポートから「Mascot DAT」として結果をエクスポートするか、またはMascotに結果を旧形式で保存させる互換性設定(AlwaysCreateDat28ResultsFile)を有効にしてください。弊社ではProteome Softwareと協力して、Scaffoldの次期バージョンでMSRファイルのサポートを有効にするよう取り組んでいます。

BioToolsおよびBioPharma Compass (Bruker): これらの製品では、検索の送信は可能ですが、結果のダウンロードに失敗します。Mascotに結果を古い形式 (.dat) で保存させる互換性設定 (AlwaysCreateDat28ResultsFile) を有効にしてください。弊社ではBrukerの開発者と連絡を取り、BioToolsおよびBioPharma Compassの問題の解決に取り組んでいます。

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