今月のブログは、フラグメント強度の予測情報を利用して同定ペプチドを増加させるMascot ver.3.0の新機能についてです。新しいチュートリアルも利用可能になりました。
今月の論文は、活性化細胞傷害性T細胞上の自己結合表面受容体の役割に関する研究です。
今月の小技は、Mascotの結果をHTML形式で保存する方法についてです。
Mascotニューズレターのバックナンバーはこのページ(英語版、日本語版)からご覧いただけます。ご一読の上、ご意見・ご質問等ございましたら、お気軽にお問い合わせください。
Mascot Server 3.0には新たに、ペプチド配列、電荷状態、修飾情報からMS/MSフラグメンテーションスペクトルを予測するMS2PIPアルゴリズムが搭載されました。Mascotにおけるフラグメント強度予測導入の目的は、データベース検索結果の感度を向上(訳者注:この場合、同定ペプチド数の増加と同義)させる事にあります。
このアルゴリズムを適用した場合、MASCOT検索終了時、検索結果の予測スペクトルと実測スペクトルを比較します。もしマッチングが正しくないケースであれば、予測スペクトルと観測スペクトルの相関はランダムに分布すると考えられます。一方マッチングが正しい場合相関が高いはずです。Mascotはスペクトル間の相関度をコアのfeature(訳者注:featureとは、Percolator計算に使用するために検索結果から抽出した各種情報の数値)と組み合わせて使用し、マッチングと正しいマッチングを区別するために使用します。
Mascotには、ほとんどの装置タイプをカバーする13の事前学習済みモデルが準備されています。”CID” は、すべてのリニアイオントラップ型の装置にとって良い出発点となる選択肢です。一方Thermofisher社のOrbitrap装置には”HCD2021”が最適です。”TTOF5600”は、Sciex 5600および6600シリーズ装置に対して優れた予測を提供します。また、”timsTOF2023”および”timsTOF2024”はBruker timsTOF装置に適しています。
機械学習の不正確性を検証し、必要に応じて結果を排除する事ができるようにするため、Mascotは、”machine learning quality report”を提供します。このレポートには、MS2PIPアルゴリズム適用後の成果に関する指標とその視覚化されたグラフが含まれており、選択パラメーターが今回のデータに適していたかどうかを素早く評価する事ができます。
Holger Lingel, Laura Fischer, Sven Remstedt, Benno Kuropka, Lars Philipsen, Irina Han, Jan-Erik Sander, Christian Freund, Aditya Arra & Monika C. Brunner-Weinzierl
Cell Death & Differentiation (2024), doi:10.1038/s41418-024-01399-y
自己結合性表面受容体SLAMF7は、新規のがん治療の臨床ターゲットです。著者らは、細胞傷害性T細胞応答の開始時にSLAMF7への刺激がCD8+ T細胞に及ぼす影響について研究しています。著者らはCD8+ T細胞がSLAMF7を利用して環境からのシグナルを受け取り細胞間相互作用に伝達するという新たな機能を発見しました。プルダウンアッセイとネットワーク解析により、T細胞接触形成に関与する新たな細胞内結合分子が特定されました。
プルダウンアッセイでは、CD8+ T細胞をαCD28抗体とリン酸化および非リン酸化合成ペプチドとともに溶解しました。結合タンパク質をSDS-PAGEで分離し、ゲル内で消化および18O標識して、ペプチドをLC-MS/MSで分析しました(2回繰り返し実験)。18O定量はMascot Distillerで計算を行い、Mascot Serverでデータベース検索を行っています。
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Mascot Serverには、データベース検索結果を閲覧するためのインタラクティブなレポートが含まれています。検索結果はXML形式やスプレッドシート形式など様々な形で出力できますが、専門家ではないユーザーの場合、同定されたタンパク質とペプチドだけがわかるような、シンプルな出力ファイルが欲しい場合もあるでしょう。
そういった需要にこたえるファイルを出力するための操作はとても簡単です。まず、MS/MS検索のデフォルトである”Protein Family Summary Report”で検索結果を開きます。続いて、ヒットしたタンパク質をすべて1ページ内に表示するように設定を変えてから、[Expand All (すべて展開)] をクリックします。これによりヒットしたタンパク質の情報とペプチドがまとめられた情報が表示されます。ウェブブラウザからページをHTMLとして保存し、エンドユーザーにそのファイルを送ってください。
この操作により作成されたHTMLファイルには、ヒットしたタンパク質の概要と、同定タンパク質の存在を裏付ける同定ペプチドの情報が含まれています。もしペプチドに関する情報が不要な場合、Report Builderのタブを使用して、各種条件にてフィルタリングした同定タンパク質の表をCSVファイルとして保存することもできます。
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