2025年2月号 (#123)

今月のブログは、内因性タンパク質分解研究のデータセットに対するFragPipeとMASCOTの検索結果比較です。

今月の論文は、ヒト胃がん関連サンプルにおける新規発見性の高いペプチドについての包括的な研究です。

今月のお知らせは、新しくリリースされたMascot Server 3.1についてです。Thermo Proteome Discoverer™との統合が強化され、Mascot Server 3.0で発生したいくつかの重要なバグが修正されました。

Mascotニューズレターのバックナンバーはこのページ(英語版日本語版)からご覧いただけます。ご一読の上、ご意見・ご質問等ございましたら、お気軽にお問い合わせください。

Mascot vs FragPipe: 内因性のタンパク質分解の解明

内因性タンパク質の分解処理、またはN-terminomicsの研究では、切断箇所について半特異的なペプチドのデータベース検索を行います。Mascot Server 3.0にはフラグメント強度の予測を行う機械学習モデルMS2PIPが含まれているため、半特異的切断設定の検索結果を大幅に改善できます。

MassIVEに投稿された最近の論文のデータについて、MASCOTで再検索をしました。この論文の著者は、terminomicマウス多発性腎臓病(PDK)モデルからTMTpro標識サンプルを処理しています。TMTpro標識はタンパク質レベルで行われたため(訳者注:切断処理前に標識が行われたため)、N末端標識は可変修飾設定を利用する必要があります。またトリプシンはTMTpro標識リジンで切断できないため、切断規則のモデル化にはオリジナルの酵素設定を使用しました。

MascotにはTMTラベル用のMS2PIPモデルが付属しており、これはこれらのスペクトルに適しています。1%のSequence FDR閾値設定で7,600以上のタンパク質が同定され、その中にはTMTpro がN末端が付与されたペプチド3,219と、アセチル基がN末端に付与されたペプチド883が含まれています。

詳細なチュートリアルはブログ記事(英語版日本語版)をご覧ください。

包括的な新規ペプチドの発見とそれらに対する機能解析プロテオミクス

Comprehensive discovery and functional characterization of the noncanonical proteome

Chengyu Shi, Fangzhou Liu, Xinwan Su, Zuozhen Yang, Ying Wang, Shanshan Xie, Shaofang Xie, Qiang Sun, Yu Chen, Lingjie Sang, Manman Tan, Linyu Zhu, Kai Lei, Junhong Li, Jiecheng Yang, Zerui Gao, Meng Yu, Xinyi Wang, Junfeng Wang, Jing Chen, Wei Zhuo, Zhaoyuan Fang, Jian Liu, Qingfeng Yan, Dante Neculai, Qiming Sun, Jianzhong Shao, Weiqiang Lin, Wei Liu, Jian Chen, Liangjing Wang, Yang Liu, Xu Li, Tianhua Zhou & Aifu Lin

新しいペプチドミクスは、胃がんなどの疾患の理解を進める可能性があります。著者らはEnsemblのヒト転写データから出発し、1,100万以上の潜在的なsORFsの参照データベースを作成しました。また著者らは、がん/腫瘍随伴組織、正常胃組織、AGS胃がん細胞株の複数のサンプルを準備しました。サンプルを粉砕・溶解後、限外ろ過タンデムMSを行いました。Mascot によるデータベース検索を行ったところ、1100万の sORFs の中から、これまで注釈の付いていなかったペプチドマッチが 8,495 個検出されました。 その中で、少なくとも 2 つの PSM によって裏付けられたものが 4,866 個、異なるサンプルにまたがって検出されたものが 2,290 個ありました。

バイオインフォマティクスによる特性解析の結果、新規ペプチド遺伝子のほとんどが 17、19、22 番の染色体に局在していることが分かりました。著者らはCRISPRスクリーニングを用いて、AGS細胞の増殖に影響を与える1,161種類のペプチド候補を特定しました。その大半は増殖促進因子として機能していると推測されました。また、AlphaFold2とペプチド-タンパク質相互作用ネットワークを使用して、表現型へ顕著な影響を持つ100種類のペプチドを選択し、機能予測を行いました。最後に著者らはヒト新規ペプチドアトラスデータベースを構築し、新規ペプチドームのさらなる特性解析と検証を提案しています。

Mascotニューズレターで取り上げてほしい話題や研究論文がありましたらぜひご紹介ください。また、Mascotニューズレターの内容に関してお気づきの点やご質問などありましたらご連絡ください。

Mascot Server 3.1

Illustration for Mascot

私たちはこの度 Mascot Server 3.1をリリースいたしました。 日本のユーザー様には、日本法人にて準備ができ次第ライセンスとアップデートDVDをお送りいたします。ご不明な点がございましたら弊社までご連絡ください。

クライアントAPIが2つの点において強化されました。まず、Instrument設定から機械学習のパラメータを定義できるようになりました。例えばご使用のInstrument設定に特定のMS2PIPモデルを紐づけることができます。この機能がアクティブ状態である場合、MASCOTデータベース検索後に機械学習が実行され、精査された結果がクライアントソフトウェアに送信されます。この機能はThermo Proteome Discoverer™のすべてのバージョンを含む、「result_file_mime」APIコールを使用しているすべてのソフトウェアで自動的に利用できます。MASCOTを利用するソフトウェア側の変更は必要ありません。

このパッチリリースではMascot Server 3.0で報告されたいくつかのバグや問題も解決されています。そのためすべてのユーザーにアップデートをお勧めします。

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